2016年7月

昼寝の後のもうひと頑張り

  この頃の私は、スタッフが忙しい時は息子の相手役。乗馬会はお昼頃に様子を見に行き、息子と食べる焼きそばを買って帰ることにしている。72回目の多摩川乗馬会の日も会場に着き、ゲート、フリマ、受付、屋台、ふれあい動物園、キッズコーナー、馬場…と回ってみる。馬場の近くでは多摩川を背に、紅葉台木曽馬牧場の牧場主の菊地さんが肘掛け椅子でお昼寝中。この頃昼寝をしないと牧場に辿り着くまでもたなくなったのだとか。菊地さんは私とおない年だ。
 私は昼寝知らずでいたが、昨年から夕食後にちょっと昼寝しないと、もうひと頑張りできなくなってきた。一日の最後は、三匹の犬の散歩と食事と目薬をさすこと。そして明日へのメモだろうか。
 そういえば、17年前に夫を事故で亡くした時、私は無痛無汗症という難病を持つ息子のことが出来ていないから、置いていかれたのだと感じていた。10年間でちゃっちゃっと準備して私も追うつもりでいたらしく、気づくと10年保証の死亡保険に三社も入っていて、自分でも驚いた。あの頃に比べると、福祉も医療もめざましい発展を遂げてきた。当時はまだ“無痛無汗症”と言っても、ほとんどの開業医は知らなかった。しかし昨年国の難病に指定されてからは、ネット上で、難病情報センターやWikipediaなどのフリー百科事典からも説明が得られるし、無痛無汗症の会や資料につながれる。関係者の頑張りもあって、ようやく無痛無汗症は市民権を得たのだ。
 初め無痛にばかり目がいってしまったが、無汗も結構辛い。季節は夏に向かっている。息子の適温と周囲の人の適温が違う。本人の大動脈を冷やしてくれるクーリンググッズは、長い間の課題だ。最近自宅の近くに、息子の好きそうな恰好いい車が止まっている。ご主人と話してみたら、レーサーだった。そこでずっと探していた、レーサーが着る水流式のクールベストについて尋ねてみると、すぐにカタログを貸してくれた。レーシングカーにはエアコンが無いから、車中の温度は60度になり、それをベストが快適温度にしてくれるという。そんなに冷やしたら低体温で危篤に陥らないだろうか?水と氷を入れるクーラーボックスは、空っぽでも5㎏と26㎏の2タイプ。そんなに重いものをどうやって移動させよう?販売元に電話すると、詳細は制作している海外でしかわからない、購入して試してもらうしかないという返事だった。そういえば最初のクールベスト情報は、アメリカの無汗症の会からで、それも大きなボックスを自転車に積むタイプだった。欲しいのは、できれば水流式で、移動にも向いた軽い冷却装置のある、ベストではなく大動脈部分を冷やす上下のウェアーだ。扇風機式は、既に作業服として国内で製品化されている。
 たった一つの課題さえまだ解決していない。一人では何もできないが、話題を投げかけることくらいなら出来そうだ。息子の暮らす環境作りも、そろそろ昼寝の後のもうひと頑張りの域だろう。
 アメリカの同病者を探すため、ネットで「無痛無汗症」「アメリカ」で検索してみたら、無痛無汗症の責任遺伝子を発見された熊本大学の犬童康弘先生のレポートに出会った。中で私のことにも触れられていた。知らなかった。その最後の方に「患者さんとご家族へのメッセージ」という見出しがあり、“Rare diseases, common problems”という言葉が引かれていた。希少例の問題から普遍的問題へ。私も、無痛と無汗との取り組みを、全ての人が痛みと汗の大切さを知ることにつなげたいと願っている。もうひと頑張りって、どこまで続くのだろうか?


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