2016年6月

キツネが言った

  昨年、「ナナの家」では顧問の赤塚光子先生をお迎えして、先生の福祉人生を垣間見るような貴重な職員研修を二回行った。その中のティータイムで、「私の思いをみんなのものにする」という宿題をいただいたのに、ずっと手つかずできてしまった。今日は少し頑張ろう。
 私は「ナナの家」の職員にも自分にも、まず誠実さを求めてきた。それは具体的には、人やものときちんと向き合うことだと思う。私たちはどうしても不完全だから、どんなに誠実に向き合ったつもりでも、失敗をしてしまう。そうしたら、また軌道修正して誠実に向き合う。その繰り返しの中で、人やものへの理解が深まっていくのだと思う。
 人は理解するほど支援の方法が見えてくる。障がい者の場合、障がい部分だけを支援し、得意な部分は社会に役立てていく。支援者の中には<支援=良いこと>と思い込み、できる部分も支援してしまう人がいる。すると結果として障がいを助長することになる。支援は適切であることが必要だ。小山内美智子さん(当事者)の「あなたは私の手になれますか」という本が増刷を重ねている。この本の題には、あなたは私の手のように、私が排泄した後のお尻をふけますか?という意味が込められている。適切な支援とは、障がい者が支援を必要とすることに対し、自分を丁寧にケアすることと同じように支援することなのだ。
 組織を運営していると、予期せぬことが毎日のように起こる。うれしいこともあるが、思い通りにいかないこともある。夕方のFM東京を聞いていたら、第一志望の会社に就職した20~30代の人は、全体の20%台という話が流れてきた。このデータの信憑性は定かでないが、それでも願いは叶わない人の方が多そうだ。そんな時は、発想の力がものを言う。子どもの頃読んだエレナ・ポーターの「少女パレアナ」(村岡花子訳)のプラス思考は印象的だ。お人形が欲しかったのに松葉杖が届いて失望した時、“杖を使わなくて幸せ!”と感謝の気持ちに転換することを知ったパレアナ。私は今まで何度もパレアナの真似をして、発想を転換してきたんだと思う。
 また、社会保障と税の関係からしてみても、福祉は一般社会との関わり無しには展開してはいかない。福祉の組織に一般人も加われば、運営に新しい風が吹くだろう。親しい社会福祉法人に、最近大工さんが入社したそうだ。「ナナの家」はこの春農園を始めたから、農業に詳しい人がいればきっと豊かな収穫が期待できる。いろんな人がいて、異なる発想があって、それらがぶつかりあって、統合されて、堅固な組織になっていくのだと思う。
 そして、無いなら創る。この頃は、職員の特性を生かしたプログラムが毎年生まれている。一人の職員の「アートに力を入れてみたい!」の声に、「アートびっくり箱」の著者に連絡してみる。すると、その著者が直接こどもデイの活動に加わり、職員を指導してくれることになった。5月の鯉のぼりの絵一つとっても、子どもたちの作品が生き生きとしてきたのにお気づきだろうか?私たちの共通項は“障がい児”。子どもたちのために一つずつ創っていけば、いつかきっと全体が変わる。それを支援する何人もの専門家の存在は、「ナナの家」の大きな強みだ。
 “大切なことは目に見えない”と「星の王子様」のキツネが言った。見えないけれど大切な思いを、これからも時々伝えていきたいと思う。


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